BE THERE

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真実は闇の中、翳る鏡像の微笑みを。

「ふふふ……上手く行ったな。これで依頼達成だ」



 2008年2月6日PM6:18。新潟県某所。何の変哲もない雑居ビルの一室。内装は極めて無機質。打ちっぱなしのコンクリート壁に蛍光灯が2本だけ。簡単なキャビネットに小さな冷蔵庫、そしてこの空間には似つかわしくないハイスペックなパソコン。そのパソコンの前に一人の男が座り、画面を見ながら愉悦を隠し切れずに口元を歪めている。

 最近、まことしやかに注目を集めている一つのブログサイトがある。その名前は『BE THERE』。この男は何を隠そう『BE THERE』の管理人。表向きは『新夜シキ』と名乗っているが、勿論本名ではない。そも、彼の本名など知るものは誰一人いない。

「こんな簡単な依頼をこのオレに持ち掛けて来るなんて、あのジジイも耄碌(もうろく)したかな」

 彼は依頼に応じてどんな仕事をこなすフリーランスの、所謂『何でも屋』だ。今回、さる大物からの依頼を受け、ブログ『BE THERE』を立ち上げたのだった。



コンコン



 唐突に入り口ドアの方から音がする。誰かがドアをノックしているらしい。

「開いてるよ」

 この部屋に訪れる者、否、この部屋の存在を知っている者など元より限られている。彼は特に確認もせずノックの主を招き入れる。

「首尾はどう?」

 部屋に入って来たのは紙袋を抱えた若い女性。セミロングの緩い内巻きの髪を揺らし、スーツを着た如何にもキャリアウーマン風の美女だ。勿論彼女は彼の協力者。表向きの名は『艶夜サキ』という。当然の事ながら、彼女もまた本名ではない。

「ああ、ついさっき達成した所だ」

「流石ね。そろそろだと思って、お祝いにワインを買って来たわ。乾杯しましょう」

 そう言うと彼女は慣れた仕草でワインを開栓し、キャビネットからワイングラスを二つ取り出すと、真紅の香り高い液体を注ぎ入れる。そう、紙袋の中身は高級ワインだったのだ。

「…へえ、シャトー・ラフィット・ロートシルトか。分かってるね」

「フフフ……まあね、私は美味しいワインと出来る男が好きなの」

 妖艶な視線を送り、彼女は彼にワイングラスを手渡す。

「それじゃ、依頼の達成を祝して」

「今夜も美しい君の瞳に」



『乾杯』



 涼やかで透明な、あたかも上質の鈴を思わせる音を響かせて、二人のグラスが触れ合う。二人はそのまま一息に半分ほどワインを飲み下す。

「しかし世の中ってのは案外ちょろいもんだな。ナメて掛かってツリが来る。たったこれだけの仕事で200万ドルだぜ?」

「フフフ……そんなの貴方だけよ。私にはオツリなんて来ないもの。せいぜいオマケが付いてくるくらいね」

 今回この新夜という男がクライアントに依頼された仕事はただ一つ。『ブログを立ち上げて15ヶ月で2500コメントを稼ぐ事』。それを達成するだけで男の元に200万ドルという大金が転がり込む。
 男はクライアントの真意など知り得ない。何故15ヶ月なのか。何故2500コメントなのか。そして何故、こんな事に200万ドルもの大金を支払うのか。確かに腑に落ちない点は多い。だがそんな事は男には関係ない。問題なのは、この仕事が自分に出来るのか。その一点のみ。依頼を十全にこなし、クライアントから報酬を貰う。ただそれだけだ。クライアントの真意など知った事ではない。そこまで詮索する義務も必要性もない。プロの仕事人というのは元来そういうものだ。余計な手間は報酬の内に入っていないのだから。

「期限までまだ2ヶ月以上あるけど、どうするの?早々にクライアントに報告して次の仕事を探す?」

「…いや、早く終わらせた所であの強欲ジジイは報酬を変えたりしないだろうぜ。ならあと2ヶ月、ゆっくり遊ばせて貰うさ。どうせなら3000まで稼いでみるのもいいな。もしかしたら、目の色変えて飛びついてくるかもしれないぜ、あのジジイ」

「フフフ……そうね。これだけの報酬が入れば急いで次の仕事を探す必要もないものね」

「そういう事。ところで、そっちの仕事はどうなってる?」

「クライアントがなかなか納得しなくてね。ちょっと苦戦中って所。でも何とか一両日中にはカタをつけてみせるわ。私も負けてられないもの」

「頼もしいな。仕事が片付いたら派手にバカンスへ洒落込もうか。そうだな、フィジーかタヒチあたりなんかいいかもな」

「イヤよ、そんな日本人だらけの所なんて。どうせなら夢は大きく、無人島一つ買い付けるなんていいかも知れ……」

 その時。



「おっと、大人しくしてもらおうか、お二人さん」



 激しい物音と共に、ドアが開け放たれる。そして無数の大きな足音。二人が顔を強張らせ、ゆっくりと振り向いた、そこには――――――
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by araya-shiki | 2008-02-07 18:11 | Comments(4)
Commented by ラット at 2008-02-07 22:04 x
一体なんですかこのいろいろと大人な雰囲気のブログはっ!
てか、2500コメント到達ですか、おめでとうございます。
そして一番最後に現れた謎の人物の正体が気になります。
……シキさん、ピンチになったら『点』を的確に突けそう。
Commented by N at 2008-02-08 00:09 x
・・・・え!?
なに!!??
Commented by HOCT2001 at 2008-02-08 17:18
2500コメント達成記念小説でしょうか?
おめでとうございます。
うちのブログは何コメントくらいかなぁ。
少なくとも2500はいっていないはず。
Commented by araya-shiki at 2008-02-08 18:31
>ラット様
ふ……これがオトナの世界ってヤツです(チガウ)。私は直死の魔眼なんて便利なものは持ってませんです。…欲しいですが(マテ)。

>N様
ふ……私は皆を騙していたのです。全ては金の為だったのです。さあ、私の前に跪くがい(強制退場)

>HOCT2001様
ありがとうございます。コメント数は『記事管理』ですぐに確認出来ますよ~。恐らくHOCT様のブログで一番コメントしてるのは私だと思いますけど(奈須まりも含め)。
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幾千の言葉を紡ぎ言霊を届ける新夜 詩希のブログ『BE THERE』。初めての方はカテゴリ『初めましての方へ』を読んで下さい。一応更新復活中。……変わってない? それはきっとタイミングの問題。


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