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霧の中の鎮魂歌(レクイエム)①

 …キン…


 …キン…


 …キン…


 激しい頭痛。激しい眩暈。激しい嘔吐感。
 俺が目覚めた時、初めて感じた気分がそれだった。

 ここが何処なのか分からない。俺が誰であるかも分からない。どうやら俺は俗に言う『記憶喪失』ってヤツになってしまっているらしい。
 電気も点いていないこの部屋には分厚いカーテンが引かれていて、今が一体何時くらいなのかも分からない。まあ日が全く漏れていないから、真昼間ではなさそうだが。
 今の俺には、何が真実で何が虚像なのか、全く判断出来ない。
 だが一つだけ分かった事がある。



 目の前に転がっているグロテスクな二つの肉の塊は、どうやら人の死体らしいと言う事。



 もう既に殆ど原型を留めておらず、しかも今だ噴水のように血を噴き出し続けている。つい今しがた殺されたのは明白だ。
 自分が何者なのか分からない以上、そいつらが誰であるのか、俺との関係はどのようなものだったのかなんて、分かる筈もない。

 俺は少しだけ奇妙な事に気付いた。

 それは、そんな異常な光景を目の当たりにしても、自分自身物凄く冷静であると言う事。

 くそ、一体どうなってやがるんだ。
 人並みに悪態ついてみるものの、どうもしっくりこない。この状況を当たり前のように享受しているみたいだ。
 何も思い出せない。目の前には死体。当然この部屋は血の海。俺自身も血塗れ。
 もしかしたら、この死体は俺自身が作り上げたって可能性さえある訳だ。事実、俺には一つの外傷もない。
 こんな状況なのに冷静でいられるなんて、俺はなかなか壊れているのかもな。

 とは言え、思い出せないものは仕方がない。思い出そうとして思い出せるのなら、世の受験生は何の苦労もしない。ま、その内どうにかなるだろう。
 俺は取り敢えず血の匂いの充満する部屋を出てみる事にした。

 さっきの部屋の大きさや廊下の長さから鑑みるに、至って平凡な一軒家って感じか。
 俺が歩いている廊下はどうやら一階部分。正面には玄関と階段があり、左右にはそれぞれリビングとダイニングキッチンがあるのが見える。
 リビングとダイニングも覗いてみたが全く異常は見られなかった。どうやら俺が目覚めたあの部屋だけが異空間化しているようだ。

 ふと洗面所を見つけたので、俺は血に塗れた顔を洗ってみる事にする。
 電気は付かないが水はちゃんと出るようだ。いい加減闇にも慣れてきたから問題は無いだろう。
 うん、冷たい水が実に気持ちいい。夢虚ろだった意識がはっきりと覚醒し、頭痛も幾分か和らいできた。
 顔を上げる。鏡に映った自分の顔を確認。
 年の頃はハイティーン。どんなに童顔だとしても20台前半だろう。綺麗な二重瞼の、それなりに整った顔立ちをしている。俺としてはなかなかラッキーだな。そりゃ初めて見た自分の顔が、目も当てられない不細工だったら軽くショックだって。
 俺は暫く自分の顔を眺めた後、少し長めの髪をかきあげつつ、洗面所を出た。

 さて、これからどうしようか。暢気にそんな事を考えていたその刹那。



 トン



 二階から小さな物音が聴こえた気がした。
 そう言えばまだ二階には上がっていないな。誰かいるのかもしれない。
 ま、いずれにしろ真っ当な人間がいるとは思えないが。
 俺は目覚めてまだ10分程だが、今だ『恐怖』と言う感情を持てずにいた。以前の俺はどうだったのかは知らないが。

 階段を上がる。辿り着いた二階は、一階の様子とまるで同じだった。
 二階にはトイレを含め4部屋あるが、手前の二部屋とトイレには何の異常もない。
 一つは高校生くらいの男部屋。貼ってあるポスター、聴いているCD、そして壁に掛かっている制服などからその様子が窺える。ためしに色々と物色してみたが、俺に繋がりそうなものは何一つ発見出来なかった。くそ。それにしても、財布や学生証はおろか携帯電話さえ見当たらないってのは、どう言う訳だ?
 もう一つは夫婦の寝室と言った趣のツイン部屋。さっきの部屋の住人の両親の寝室ではなかろうか。
 さっきの部屋とは違ってキレイにまとめられており、調度品の数も少ない。
 こちらの部屋でも物色してみたが、これまた何も見つけられなかった。

 だが最後の部屋だけは何か違った。一番奥のドアに手を掛けた瞬間、俺は何か嫌な予感を覚えた。
 理由は分からない。強いて言えば直感ってヤツだろう。俺は目覚めてから初めて、『恐怖心』ってヤツを抱いていた。
 頭の中のもう一人の俺が、俺に激しく警鐘を鳴らす。

『その部屋に入ってはいけない』

 と。
 しばしの葛藤の末、俺は心の声を無視してドアを開ける事にした。このまま手をこまねいていても何も解決しない。この部屋には真実が、失われた俺の記憶の断片があるかも知れないんだ。そうやって無理矢理心の声を押さえつける。
 俺は一つ深呼吸をした後、意を決してドアノブを回した。





 予想通り、その部屋も俺が目覚めた部屋と同じく血の海だった。





 部屋の中心には海の源泉が横たわっている。不思議な事に、この死体は最初に見た死体とは違いちゃんと原型を留めている。頭だけの話だが。身体は原型を留めていないのにも関わらず、頭部だけは綺麗なまま残されていた。顔には血の一滴も付着していない。
 俺は近寄ってその死体の顔を見る。
 年の頃は大体俺と同じくらいの女の子。目は閉じられているが、生前はそれなりに『可愛い』と持て囃されていたのではないかと思える程整った顔立ち。生気を失っても尚、その美しさは損なわれていない。逆に人形のような不思議な魅力を放っていた。
 周りに散らばった髪の毛もかなりの量があり、生前は長くて綺麗な髪だった事を伺い知れる。



 唐突に。
 頭の中に何かが閃いた。
 閃いたものは……『目の前の女の子の名前』。
 彼女の名前は…………









『朝宮沙織』








 何故か、それだけ思い出した。本当に、それだけ。彼女がどんな女の子で、俺とはどう言う関係だったのか、そんな事一切思い出せない。何しろ未だに自分の名前でさえ思い出していないのだから。
 それなのに……彼女の名前だけを唐突に、あまりにも自然に思い出した。

 …気が付くと、俺は彼女の頭部を抱き締めて涙を流していた。
 俺自身には涙を流す理由さえ分からない。本当に、心と体が別々の生き物みたいにぐちゃぐちゃだ。
 だが、不思議に不快ではない。俺が今流している涙は、とても尊いものの様に思えた。

 暫く泣いていると、俺の中にふつふつと新たな感情が芽生え始める。

『真実を知りたい』

 そんな感情。
 その感情が果たして自分の為なのか、それとも彼女の為なのか、そんな事は分からない。って言うよりそんなのはどっちでもいい。

 俺は何故ここにいる?
 3人を殺したのは誰だ?
 俺なのか?
 俺じゃないか?
 俺じゃないなら、どうして俺だけが生き残った?
 3人と俺の関係は?
 犯人が別にいるなら、そいつは誰だ?
 そいつは何処へ行った?
 俺が記憶を失った原因は?
 そもそも………何故こんな事になった?

 分からない事だらけだ。だからって何もしない訳にはいかない。
 状況から見て、警察が介入してしまえば俺の容疑はどう考えても晴れないだろう。
 そうなれば俺はブタ箱行き。下手すりゃ死刑だ。警察には頼れない。

 だったら……自分一人で何とかするしかない。

 だが何も覚えていない自分に何が出来る?
 本当に警察に捕まる前に真実に辿り着く事が出来るのか?

 ええい、知るかそんな事!俺は真実を知るって決めたんだ!『どうにか出来るのか?』じゃなくて『どうにかする』んだよ!

 俺は沙織の亡骸にシーツを被せて、部屋を出た。
 男部屋で俺に合いそうな服を物色し、手早く着替えてそのまま一直線に玄関へ向かう。玄関には一足のスニーカーが揃っておいてあり、俺はごく自然に足を通し、壁に掛かっているコ-トを羽織る。
 一連の行動は、考えてやったものではない。『体が覚えていた事』だ。
 ……ここ、やっぱり俺の家らしい。
 出発直前になってそんな事実に気付き、俺は一人苦笑する。

 玄関ドアを開けると、ひんやりした夜の空気が肌を刺した。
 …さて、これからどうするかな。
 俺は行く当てもなく、夜の闇へと足を向けた―――――――
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by araya-shiki | 2007-03-16 11:26 | Comments(8)
Commented by tyuuyaouku at 2007-03-16 15:44
タイトルが二次小説ということで読み始めてみれば……本編とまったく関係の無いストーリーのようで。いえ、これと本編がリンクしたら色々と批判が集中しそうな気がしますけどね。……でも、作風の陰鬱な感じは個人的には好きかもしれません。
あ、僕は『DDD』を知らないのですが、先日『ヴァリアンテ』という漫画を読んだため、凄まじく悲惨な映像しか脳内で再生されませんでした(笑)。そして、想像上ではなんだか魔物チックな奴と戦う羽目になったりする未来を創造。……これ、続き書かないのでしょうか?

話は逸れますけど、ヒロインをいきなり殺す展開は割と多い気がします。まぁ、その後は大概何らかの力で生き返るんですけど。
それでは
Commented by HOCT2001 at 2007-03-16 15:47
ヒロインをいきなり殺す…
私の中では遠野シ○君ですかねぇ。
DDDは書店にあることはあるのですが、今、ハードカバーを買うだけの資本がありません。
無念。
Commented by 上総かんな。 at 2007-03-16 19:14 x
月姫か(ツッコミ)。
ども、今日は更新できない上総かんな。です。今浜名湖。これケータイから。

いや、でも面白かったですよ、フツーに楽しめましたし。

ぐふふ、お主もワルよのぅ……。(結構悪ノリ)

でわでわ。
Commented by color-board_ypg at 2007-03-17 00:14
ほっ!新しいですねぇ、なんかわくわくします〜笑。凄く続きが気になります。
Commented by 自由気儘 at 2007-03-17 00:22 x
……マジネタかと思い凍り付きました(苦笑)。「HMの『日常』少なっ!!」と内心ツッコミ入れたら「あ゛…………二次創作……?」、とようやく気付きました。いや〜、騙された(←勝手にな)のって何年振りだろう?あまりにも騙し過ぎて「そんなことない。自由気儘嘘つかない」に「んなわけあるかぁっ!ってかどこの原住民だっっ!!」と言わせた過去があるこの僕が……
おみそれしました☆
それでは〜♪
Commented by araya-shiki at 2007-03-17 01:33
>宙矢央工様
確かに批判は多そうですね~…(苦笑)。そんな訳で、↑

>HOCT2001様
えっと、まだ主人公が殺したと決まった訳では…(汗)。

>上総かんな様
浜名湖ですか。うなぎのイメージしかありません…(苦笑)。
いえいえ、お代官様には敵いませぬ……おっほっほっほ……。

>rimi様
え~、続きを期待されましても…(汗)。

>自由気儘様
マジネタだったら、私は今ここにはいません…(苦笑)。詳しくは、↑
Commented by ru-raa at 2007-03-18 16:44
普段の芸風とはかなり違う感じを受けましたね。
いやまあ、これが『普段』なのかもしれませんけど。
それにしても恐怖系の描写も上手ですね。
それでは。
Commented by araya-shiki at 2007-03-19 09:38
>ルーラー様
どうですかねえ。書いていてそれほど違和感はありませんでしたが。
続きをもう少し書いてみないとどっちが私の芸風(作風)なのかは分かりません。
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幾千の言葉を紡ぎ言霊を届ける新夜 詩希のブログ『BE THERE』。初めての方はカテゴリ『初めましての方へ』を読んで下さい。一応更新復活中。……変わってない? それはきっとタイミングの問題。


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