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HM/Interlude ~対決!炎の豪腕vs氷雪の軽業師~

「頼もぉぉぉ!! いざ尋常に拙者と勝負致せぇぇぇぇぇぇぇぇぇィ!!」

「…………………」



 風雲急を告げるように、乾いた風が対峙する二人の男の間を吹き荒ぶ。時は戦国、場所は川中島……と言いたい所だが、実際には現代の放課後でありSGの校庭。高等部2年の水乃森雪夜は授業が終わり『さて、今日も部活か。今日はどんな探偵っぽくない仕事をさせられるんだろう。どーでもいいけど、DDDの三巻っていつになったら出るのかねぇ』とか思いながら傍らの幼馴染・日坂春奈を伴ってSSS事務所を目指して校庭を歩いていた所、突然時代錯誤な輩に因縁を吹っ掛けられたのであった。
 180cmを超えるであろう身長、がっしりとした体躯、精悍な顔つき、歴戦を刻み付けたように傷んだ学ランと学生帽(SGはブレザー着用の為校則違反)、素足に下駄(何故か校則違反)、と言った『番長』の教科書のような風貌をした男は、腕を組み大声を張り上げて雪夜を睨み付ける。その口調と相まって一般の生徒とは一線を画した雰囲気を放っている。周りは彼の男気に惚れ慕った舎弟が大勢で取り囲む。その異様な光景を、槍玉に挙げられた当の雪夜はぼへーっとした表情で訳も分からず眺めていた。

「………えっと、オレに一体何の用………」

「水乃森雪夜ぁぁぁ!! いざ尋常に拙者と勝負致せぇぇぇぇぇぇぇぇィ!!」

『ウオオオオォォォォーーーー!!!』

 番長は再び咆哮を上げる。その気合の入った雄叫びに、周りの舎弟も揃って気勢を上げる。雪夜の問いなぞ聞いちゃいねえ。さっぱり要領を得ない雪夜を尻目に、春奈が小さく言葉を漏らす。

「あー……、来ちゃったかぁ……」

「……ん? お前あの人達の事、知ってるのか?」

「うん、まあ……ね」

 雪夜が問い質す。すると春奈はいたずらが見つかった子供のような表情で、事の真相を話し始めた。

「私ね、ちょっと前にあの番長さんの後ろにいる人にコクられたんだよね。私の事が好きなんだって、あの人。瞬殺で断ったんだけど、あんまりにもしつこいもんだからその時テキトーに『雪夜に勝ったら考えてあげてもいーよ♪』って言っちゃったんだよねー♪ 冗談のつもりだったんだけど、どうやら本気にしちゃったみたい。しかも番長さんを連れて来るなんて、割と手段を選んでないね、あの人」

「…………………」

 春奈に指差された番長の後ろにいる人物は一瞬ニヤリと口元を歪める。
 一連の流れはこうだ。まず、学園に存在する番格グループ(と言っても学園を支配している訳ではなく、番格を気取って悪ぶっているだけのボランティア団体)の生徒の一人(ウザイので名前なんぞ付けてやらん)が春奈に恋をした。某無責任保険医に焚き付けられ無謀にも告白した際はあっさり玉砕してしまったのだが(『Interlude ~恋愛の伝道師による恋愛で悩む生徒の為の恋愛クリニック、開設~』を参照の事)、どうしても春奈を諦め切れなかった彼はしつこく食い下がった。そこにうんざりした春奈の口から前述の条件が飛び出したのである。彼は直情的な性格の番長をテキトーに丸め込み(主に泣き落とし)、卑怯にも自分の代わりにこの決戦の場に引っ張り出したのだった。

「水乃森雪夜ぁぁぁ!! 貴様、高校生にもなってカメを虐めるなんぞ、男の風上にも置けぬわぁぁぁぁ!! その腐った性根、拙者が叩き直してくれるわぁぁぁぁぁ!!」

『ウオオオオォォォォーーーー!!!』

「…………………………」

 目の前にカオスが展開されている。彼は一体どんな説得をして番長をこの場に連れ込んだのか、『カメに謝れ』だの『貴様はウサギか』だのと言った意味不明な咆哮が飛び交っている。番長は虐められた(とされる)カメの心情を察してなのか、若干涙を浮かべていた。意外とイイヤツなのかも知れない。

「春奈………。お前、そんな理由でオレが納得するとでも思ってんのか?」

「や、雪夜ならはっきりきっぱり諦めさせてくれるかなって♪ 何なら『オレの女に手を出すな』くらい言ってくれてもいーよっ♪ ……あ、それとっても素敵かも……♪」

「アホらし……。お前が蒔いた種だろ。もう勝手にしろよ」

 ふーやれやれ、と雪夜は嘆息し春奈を置いてその場を去ろうとする。そんな雪夜に春奈は

「そーぞーして下さぁーい♪」

「うわッ!?」

 耳元で囁き掛けた。

「あの人と楽しそうにお喋りする私。あの人と手を繋いで登下校する私。そして……」

 雪夜の頭の中をイメージがぐるぐると駆け巡る。それはやがて全てを埋め尽くし、他の事など何も考えられない。そして、決定的な一言。





「あの人に『はい、あーん♪』ってお弁当を食べさせている私」
「よっしゃやろう。オレの相手はどいつだ! どっからでもかかって来いや!!」





 雪夜の瞳に炎が灯る。拳をボキボキ鳴らして臨戦態勢スイッチオン。実はこれが初めてではない。過去にも似たような手口で、雪夜は春奈を何度も守らされていたのだった。……実に単純である。これで何故未だに素直になれないのか、筆者としても理解に苦しむのだが。

「ほう……良い度胸だ。貴様は拙者が必ずやぶちのめしてカメの御前に平伏させて謝罪させてやろう」

 番長が学ラン(校則違反)を脱ぎ一歩前に踏み出す。雪夜は正面から対峙。その距離はおよそ5m。えも言われぬ緊張感が周囲を包み、水を打ったような静寂が場を支配する。

「フン、アンタはオレには勝てない。宣言してやろう。アンタは『後頭部を強打して』オレに負ける。覚悟しておきな」

 不敵にそう零すと、雪夜はカバンを春奈に預けて神経を研ぎ澄ます。雪夜の言葉に番長は首を傾げるが、それも一瞬。雪夜同様に臨戦態勢を整える。



 こうして……ツッコミ所満載の様々な思惑が交錯するバトルがここにその幕を開けた―――



「シッ!!」

 短く息を吐き、雪夜は番長へと真っ直ぐに疾駆する。迎え撃つは番長の右ストレート。タイミングを合わせカウンターで雪夜の顔面を狙う。

「オラァ!!」

 裂帛の気合。敵を粉砕せんと豪腕を振るう。その正確さと迫力は驚嘆に値する。並みの相手ならば一撃で倒し得るその拳は、しかし。

「―――!?」

 空を切る。当然だ。雪夜は迎撃される事など百も承知で飛び込んでいるのだ。予測、と言うより計算通り。拳は紙一重の差で頬をすり抜ける。ボクシングでいう『ヘッドスリップ』という回避法だ。

「ふッ!!」

 間髪入れずに雪夜は身を跳ね上げる。番長の右ストレートをかわし相手の左側に回りこんだ雪夜は慣性に逆らわずにそのまま流れに乗り、独楽のように身体を捻ると番長の『後頭部』に回し蹴りを叩き込む―――!

「ぬっ!? これしきの事で……!!」

 しかし、敵もさる者。『狙う』と宣言されていたものをそうあっさりと決めさせるはずがない。身を屈めて回し蹴りをやり過ごす。同時に下から雪夜の身体をアッパーで狙おうとするも……その雪夜は信じられない事に、

「ッ!?」

 蹴りに行った足を瞬時に畳む。円を描いていた蹴りが途中で直角に変化する。ちょうど踵落としのような軌跡を辿って番長の肩を蹴り、反撃を抑えると同時にその反動を利用して二歩バックステップ。一瞬にして元の立ち位置に舞い戻る。曲芸のような運動能力。これぞ雪夜のスタイル。番長がパワーで捻じ伏せるタイプなら、雪夜は真逆のスピードとテクニックで相手をいなす。
 
「これは……なかなか」

 初手のやり取りで何かを感じ取ったのか、嬉しげに口元を歪ませながら体勢を整える。対して雪夜は無表情。骨のある獲物に闘争本能を刺激され、番長は気合を入れ直す。熱を帯びるバトル。最早周囲がどうこう口を挟める領域ではない。その場にいる誰もが、固唾を飲んで戦況を見守っている。

「ハッ!!」

 対峙した位置から再び雪夜が疾る。番長も迎撃に向かう。時間を巻き戻したような二度目の交錯は、僅かに、そして大きく状況を変化させる。

「が……がはっ!?」

 番長が苦しげに息を吐く。
 雪夜のスピードを目の当たりにした番長は、先ほどの反省を生かして迎撃をストレートからフックに切り替えた。直線ではなく曲線で巻き込むように雪夜を捉えようとしたのである。工夫は功を奏し、初撃では空を切った拳は雪夜のこめかみを僅かに捉えるに至ったのだが……変化を凝らしたのは雪夜も同じ。ヘッドスリップで横をすり抜ける際、水月、即ち鳩尾に掌底を叩き込んだのである。
 カウンターを視野に入れたヘッドスリップは僅かに精度を欠き、先ほどは完璧にかわして見せた番長の拳を掠らせてしまったが、それを覆して余りあるダメージを番長に負わせた。正に『肉を切らせて骨を断つ』。そして雪夜は間髪入れずに

「りゃあ!!」

 左フックで番長の『後頭部』を捉えに掛かる―――!

「くっ!?」

 酸素欠乏でフラフラの頭を抱えながら、それでも番長は狙われた『後頭部』を必死でガードする。相手の狙いは『後頭部』だ。ここさえ守りきれば、勝機も見えて来よう。
 ……しかし次の瞬間。

「え―――!?」

 予想外の部位に強い衝撃を受け、顎が浮いた。衝撃を受けたのは後頭部……ではなく、足元。正確には『膝の裏』だ。つまり雪夜は左フックで番長の『後頭部』を狙うと見せかけ、同時にローキックを繰り出して膝の裏を叩いたのだ。この位置に蹴りを受けて膝を曲げない者などいない。それは人間工学上、仕方の無い事である。
 雪夜は僅かに浮いた番長の顎を見逃さず、首に手を差し込んで―――

「これで終わりだ!!」



 そのまま地面に番長の『後頭部』を叩きつけた―――――!!



「ぐ……ギ……!?」

 倒された番長は脳震盪でも起こしたのか、そのまま泡を吹いて動かなくなってしまう。どう見ても戦闘続行不可能。SG校庭で行われた理由さえ曖昧なバトルは、雪夜の一方的勝利で幕を下ろしたのだった。

「ほらな。『後頭部を強打して』負けただろ」

 乱れた着衣を直し埃を払って、雪夜はサラリと言ってのける。攻撃、それどころかこの台詞さえも全てはこの結果を招く為の伏線だった。番長は雪夜の術中にはまり、後頭部を『攻撃』されるとばかり考えてしまった。意識が後頭部への攻撃にだけ向いてしまい、フェイントや鳩尾・膝裏への攻撃がより効果的に働いてしまったのだ。
 雪夜の真骨頂はスピードでもテクニックでもなくこの『インテリジェンス』。昔から春奈を守る為に場数を踏んでいた経験、卓越した頭脳から導き出される『計算』に則って相手を圧倒する事こそが、雪夜の本来のスタイルであった。無駄に暴力を振るう事こそないものの、そんなこんなしている内に雪夜はケンカが強くなり、何気に『SG最強の座』に収まっていたりする。

「お疲れ様~♪ 今回は珍しくちょっと掠っちゃったね。痛くない?」

「お前の所為だろ……。ったく、いつもながら面倒くさい……」

『………………………』

 雪夜と春奈は何事もなかったように、絶句する人垣を通り抜けてSSS事務所へと向かう。無論、この光景を見て原因を作った彼が春奈を泣く泣く諦めた事は言うまでも無い。



 ……そして後日、雪夜は次代番長に指名され番格グループのガチムチ男共に執拗に追い掛け回される羽目になったのはまた別の話―――――


Interlude out
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by araya-shiki | 2009-11-03 10:30 | Comments(2)
Commented by ru-raa at 2009-11-04 16:26
雪夜、完全に春奈の掌の上ですね(笑)。
そして雪夜がめちゃくちゃ強いことにマジで驚きました。
あと番長、なにげにいい奴ですね! 普通に好感が持てるキャラでした!
それでは。
Commented by araya-shiki at 2009-11-04 20:43
>ルーラー様
対等に見えて実は対等じゃないのがこの二人(笑)。雪夜は元々ケンカが強いという設定ですので。まあ発揮する機会は殆どないのですけど(汗)。
番長は……若干やりすぎた感が無きにしも非ず(汗)。ま、よーするにコイツもバカなんです。
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幾千の言葉を紡ぎ言霊を届ける新夜 詩希のブログ『BE THERE』。初めての方はカテゴリ『初めましての方へ』を読んで下さい。一応更新復活中。……変わってない? それはきっとタイミングの問題。


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