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HM/Interlude 『ある春の日の小さな嘘』

「春奈!!」




 これは私達がまだSGに入学する前のお話。SG進学を間近に控えた4月の初日。私・日坂春奈のいる病院の一室に、血相を変えた私の幼馴染・水乃森雪夜が飛び込んで来た。
 雪夜と私は幼馴染。互いの家が隣同士で仲良しだったという事もあり、生まれた時からずっと一緒に育って来た。他の人とは違う、ちょっとだけ特殊な身体的特徴を持つ私は、いつも意地悪な男の子達にからかわれた。そんな時にいつも守ってくれたのが、この雪夜。いつもその柔らかい微笑みで、透き通るような声で私を包んでくれた。私にとっては、掛け値なしに大切な存在。それが、目の前の水乃森雪夜という男の子だった。

「春……奈……?お前事故に遭って大ケガしたんじゃ……」

「……え?……ああ、うん………」

 想像とのギャップに戸惑っているのか、雪夜は困惑した表情でベッドサイドに佇む私を見つめている。
 事故に遭ったのは本当。でも、正確には『巻き込まれた』と言った所。ケガをしているのも本当。でも、私が負っているのはほんのかすり傷程度。この日の午前中、買い物で街を歩いていた私の元に、一台の居眠り運転車が突っ込んで来た。直前の所で気が付いた運転手が咄嗟にハンドルを切ったお陰で私に直撃する事はなかったが、車はそのまま壁に激突してしまい、大破した。奇跡的にも運転手は軽いケガで済んだのだが、避けた際に私も腕にかすり傷を負ってしまった。それだけならいいのだけど、私はその時のショックで軽い貧血みたいになり、失神してしまったのだ。まあ病院に搬送されてすぐに意識を取り戻したのだけど。
 かくして半日入院となってしまった私は、『ちょうどエイプリルフールだし』との軽い悪戯心で雪夜にケガと事故の程度を誇張したメールを送った。しかも私の携帯を使って母さんが送ったように見せかけて。最初は少し心配させてやろうくらいにしか思っていなかったのだけど……それから僅か数十分足らずで、病室まで雪夜が駆けつけてしまった。この様子じゃその後すぐに送ったネタバレメールは読んでいないだろう。

「あ、あはは~、実はエイプリルフールネタでしたっ。ちょっと心配して欲しくて。でもこんなに早く駆け付けてくれるなんて思わなかっ……」

「バカ!!オレがどれだけ心配したと思ってんだ!!ふざけるのも大概にしろ!!」

 ここが病院だという事も忘れて、雪夜は私を怒鳴りつける。

「……ご、ゴメン」

「全く、冗談でもやっていい事と悪い事があるだろ!!人を騙してそんなに楽しいかよ!!」

 烈火の如く怒る雪夜に、私は萎縮する。確かに……雪夜が怒るのも無理はない。………でも………でも………

「……でもね、心配して欲しかったのはホントだよ?雪夜はいつも私を守って……くれるけど、雪夜が一体どういうつもりでそうしてくれるのか、ちゃんと言ってくれた事って一度もないんだもん。雪夜の気持ちが知りたいだけだったんだもん……」

 心の堰が決壊して、感情が溢れ出す。……そう、雪夜はいつも私を守ってくれる。くれるのだけど……何故雪夜がそうしてくれるのか、この頃の私にははっきりとした確証が持てないでいた。からかわれる私を哀れに思っての事なのか、幼馴染としての使命みたいなものなのか、それとも……。過去にも何度か訊ねた事はあった。でも……雪夜はその度にいつも、のらりくらりと結論をはぐらかす。
 とにかく、不安だった。私はこんなにも……雪夜が好きなのに。雪夜は私と同じ気持ちなのか、それともそうじゃないのか。この頃の私は、不透明な雪夜の態度に大きな不安を抱いていたのだった。感情が涙に形を変え、頬を濡らす。

「………でもま、大丈夫そうでよかった。それじゃ、オレは用事の途中だから」

「雪夜ぁ………」

 怒りが収まったのか、落ち着いた様子で雪夜は私の顔を見ずに踵を返す。それでも問いには答えてくれない。不安定だった心の天秤が傾きかけ、私の世界をモノクロに変えてゆく。
 病室を出て行く直前、ドアノブに手を掛けた雪夜は独り言のように「……ああ、そう言えば今日はエイプリルフールだったっけ」と前置きし、振り返って私の方を向いた。そしてほんの少し口元を綻ばせて―――





「お前なんて……大っ嫌いだよ、春奈」





 そんな台詞を言い残して、雪夜は病室を出て行った。

「………え?……え?…………え?」

 予期せぬ言葉に混乱した頭で必死に考え、反芻し、真意を探り出し、結論を導き出す。数秒の後……

「えっと……エイプリルフールと認識した上で『大っ嫌い』って事は……雪夜は私の事……大好きって事……?……ふふ、ふふふ………きゃ~~~~っ♪やった~~~~~っ♪♪♪もうっ、雪夜ってば恥ずかしがり屋さんなんだから……♪」

 私もここが病院だという事を忘れ、大声でくるくるとはしゃぎ回る。
 ……違う。冷静に考えればこの台詞だとせいぜい『少なくとも大嫌いではない』という意味が関の山だ。あまりにも短絡的なその結論は、しかし。モノクロだった私の世界を安堵と幸福で彩るには充分すぎた。……我ながら単純……。



 麗らかな春の一日。小さな嘘が大きな幸せを運び込む。止まりかけていた私の時間は、この瞬間から動き始めたのだった―――――
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by araya-shiki | 2009-04-01 20:38
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幾千の言葉を紡ぎ言霊を届ける新夜 詩希のブログ『BE THERE』。初めての方はカテゴリ『初めましての方へ』を読んで下さい。一応更新復活中。……変わってない? それはきっとタイミングの問題。


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